世界遺産のこと by KAZU

アルベロベッロの街かど

  イタリア南部の田舎町「アルベロベッロ」は世界遺産の町である。私が雑誌社の友人と訪ねたのは34年前である。何かの本の隅にトゥルッリの集落を友人が見つけ、行ってみようか? うん、行こうと出かけた。 ローマでレンタカーを借り、言葉も満足にできない2人旅が始まった。 当時のアルベロベッロは、一部のヨーロッパ人が避寒にくるだけのような観光地で閑散としていた。2泊したが特に見るものもなく、ただ連日露店でビールを飲んでのびりしていた。 日本人が珍しいらしく、町の人が代わる代わる我々を観察にきた。静かでゆるやかな時が流れていた。 アルベロベッロは今は観光客でごった返して酷かった、と数年前に旅した写真家の友が落胆の顔で話してくれた。

  それからスペインのバルセロナにガウディの建築を見に飛んだ。その頃は、ガウディなど一般の人はほとんど知らなかった。タクシーの運転手に地図を渡して、ガウディ作品を見て歩いた。 天才とは思わなかった。鬼才とは今も思っている。誰かが天才といえば、現物を見ない人までが天才と思い込むのは、自己基準の欠如である。 そしてガウディも世界遺産になった。今年辺り再訪しようと思う。老いた自分にガウディ作品はどう見えるか、自己の価値基準の経年変化が楽しみである。

  五島列島の教会たちを訪ねたのは、1993年である。のんびりと島から島を巡り、いくつもの教会を訪ねて雑誌にも発表した。 その教会群も世界遺産に申請するようで、すでにその話だけでも観光客が押し寄せているらしい。ずっと昔からあるものを、騒ぎになってからこぞって訪ねるのは、ブランド商品に無抵抗に飛びつくに似る。 集落の信者さんと語り、潮騒をBGMに天主堂の撮影をしたあの静けさは、今はもうないのだろうか? いささか世界遺産新指定は乱発気味に感じる。指定されてからかえって酷くなった例も聞く。人が群れとなって押しかけるからだろう。

  自分の好きな静かで素敵なもの、場所が急速に失われてゆく。

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