Washington D.C.

正面向かって左側、ファーストストリート沿いのアーケード。組積造のアーチの繰り返しが重厚性をさらに盛上げる。

  公共交通機関のダイヤ編成に関しては、良循環と悪循環がはっきりしている。新線の開通当初のダイヤが不調(お客が少ない)だと、通常は1時間あたりの本数が減る。となると待ち時間が長くなり、一層使いにくくなり利用者減を招く。利用者が減ると、それに呼応してさらに本数が減り、1時間に1本、さらには数時間に1本ということになると、あとはもう「佐渡のトキ」のような「絶滅危惧種」症候群。

  アメリカ合衆国における鉄道の歴史は、大都市周辺の通勤電車を除き、自動車と航空機に押されて、鉄道会社アムトラック(全米鉄道旅客輸送公社)の運行は、1日に数便という路線も少なくない。廃止こそしないけれど、長距離列車は、「飛行機嫌い」や列車マニアなど一部の人のものでしかなくなってしまった。

Washington D.C. Washington D.C.

マサチューセッツ通り側に面するファサード。ローマ風のアーチとイオニア様式の柱頭が端整で重量感のある外観を創りだしている。

  モータリゼーション以前、航空機移動化以前の首都の玄関口であったワシントンDCのユニオン駅は、重厚にして荘重な雰囲気を備えた豪華な建築であったが、利用客の激減により、メンテナンスや新たな設備投資がなされなくなり、急速に荒廃が進むこととなった。

  大掛かりなリノベーションが実施されて生まれ変わった現状からは想像しにくいが、具体的には、二十数年前には、屋根に苔が生える、一部が崩れ落ちる、内部にキノコが生えるほどに荒廃が著しかった。

  連邦議会では取り壊しさえ議論されたが、1981年にユニオン駅再開発法が議会を通過。1億6000万jと3年の歳月をかけて改修工事が行われ、'88年9月、ついに創建時の栄光を取り戻した。

  オリジナルは1908年、シカゴの建築家ダニエル・H・バーナム(1846〜1912)の設計で完成。現代建築登場以前のアメリカで流行した歴史主義スタイル(ボザール様式) でまとめられている。列柱で分節化された大空間、ローマ風のアーチ、あるいはギリシャ風の柱頭などの特徴がある。映画『ゴーストバスターズ』でおなじみのニューヨーク公立図書館、グランドセントラル駅、映画『ダーティー・ハリー』の舞台になっているサンフランシスコ市庁舎もこの様式である。
        (ワシントンDC編、つづく)

写真・文:Jin Richard Kurita 日本国籍の建築家、2つの大学の非常勤講師、テレビ(テレ朝系)のコメンテーター、近著『Schroder House』,『Horta House』((いずれもバナナブックス刊)、『LRTが街を変える』(都市文化社)ほか。

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